秋、キャンパスの片隅で。

入学の式典とそれに伴う行事が全て終わり、わたしは真っ先に学内の隅にある部屋を訪ねた。図書室と共に、幼い頃から慣れ親しんだ部屋。年中閑古鳥が鳴くような場所だから、わたしの格好の遊び場になっていたのだ。多分、目をつぶってても来る事ができるだろう。
ノックもそこそこに部屋へと入ると、いつものロッキングチェアに見慣れた姿があった。相変わらずなのね、と微笑しながら、老婆はわたしへ語りかける。
最初で最後の、わたしへの講義。


あなたに教えることは、実はもうあまりありません。今まであなたにしたお話や訓練が、私が教えられた全てです。あなたはよく聴き、そして身に着けました。
でも、最後にひとつだけ。世界で唯一の力を持つ、あなたにこそ贈らなければならないお話です。

暴力にせよ権力にせよ、強大な力には、それ相応の責任が伴うものです。責任なき力が広まってしまったら、この世界は成り立ちません。

正直、その力を持つ者があなたで、本当によかったと思います。それはこの世の理から外れた、本来あってはならないもの。悪意を持って使えば、多くの人に対して危害を与える事もたやすいでしょう。
だからこそ、それを持つものはより分別がつき、より寛容であり、より理性的でなければならない。
幸い、あなたはその全てを持ち合わせています。だからこそ、私は安心してあなたを送り出せるというものです。

願わくば、その力を使うときが永遠に来ない事を祈りたいのですが、あなたとその力がこの世界にある以上、それはまだ世界によって必要とされているのでしょう。
だから、だからこそ。全てを壊すその力を、全てのものを守るために使いなさい。けして私利私欲のために使わず、本当に大事なものを守るために使いなさい。
大丈夫、あなたにはそれができる。自信を持ち、胸を張って生きなさい。
私に言えるのは、これだけです。


静かに、しかししっかりと発せられた言葉をひとつひとつ心に刻みながら、でも、わたしは困ってしまった。なにせ講義してくれないってことで、この半年から1年くらいの計画が丸つぶれになってしまった。
じゃあ今のわたしはどうすればいいのかと質問すると、彼女はいたずらっ子のような笑みを見せながら、ぬけぬけと応える。
「それはあなたが決めることです。ここでの生活はまだまだ長いのですから、あなたが興味を持った事を存分に学びなさい。あなたができる事は、まだまだたくさんあるはずよ」


・・・とりあえず、目に付いた部屋を片っ端から訪ねてみよう。