うさぎとわたしとあたし。

懲りずに超短編


いつの誕生日か忘れたけど、ともだちのお母さんに手作りのぬいぐるみをプレゼントしてもらったことがあった。ちょっと不恰好な、うさぎのぬいぐるみ。
うさぎは北の地域に住むものだから実物を見たことがないし、似てるかどうかなんて分からなかったけど、多分あんまり似てなかったと思う。わたしはそれをすっかり気に入ってしまって、肌身離さず持って歩いてたのよね。
え、知らないって?それは分かっているから、もうちょっと聞きなさい。

しばらく経ったある日、村にオオカミが一匹迷い込んできた。オオカミは群れで行動する生き物だし、普段は人を警戒して里までやってくることはない、これは知ってるわよね。
なのに一匹で、危険を冒して人里までやって来たの。どういうことか・・・知らないなんて言わないでよね。
そう、そのオオカミは群れからはぐれてしまった。それで、餌を求めてやってきた。そこに鉢合わせたのがわたし。当時のわたしはいたいけな少女だったから、当然身を守る術なんて持ってない。当然お腹を空かせたオオカミにとっては格好の的よ。
果たして、わき目も降らずにヤツは飛び掛ってきた。逃げる間もなく突き飛ばされるわたし。あの時はもうダメなんじゃないかと思っちゃった。


でもわたし・・・わたし達は今、無事でここにいる。どういうことか想像はつくよね。そう、オオカミが狙ったのはわたしじゃなく、うさぎのぬいぐるみだったの。あっと気付いた時にはもう、茂みへ飛び込んでいた。
その後、お父さんが村のみんなを呼んで一緒に探してくれたけど、結局見つからなかった。盗られてしばらくは寂しくて夜も眠れなかったけど、いつの日かそんなことはなくなった、とさ。


・・・


「・・・そんな、昔話よ。自覚できた?」
「そんなの、あたしが経験したんじゃないしできるわけないじゃない。第一、『いたいけな』ってなによ、笑わせてくれちゃうわ」
「ふふん、あなたと違ってわたしは繊細なのよ。というか、結局護身術なんて誰にも教わってないわ。そこ訂正ね」
「全く口が減らないよねえ・・・ところで、なんで今になってうさぎの話なのよ。あたしにとってのうさぎのイメージなんて、隙あらば首根っこを狙ってくるトラウマ級のハンターしかないのよ。ああ、思い返しても恐ろしい」
「ん、別に何でもよかったわ。たまたま思いついたのがこの話だった、ってだけよ」